地底人


 

昼間から遮光カーテンで光を遮り、2階の自分の部屋にお菓子とジュースを持ち込んで母親が借りてきた聞いたこともない海外の映画を見る。後は本を読んだりネットしたり。こんな生活を・・・そうだ、今日でちょうど一ヶ月だ。ぴったり一ヶ月間も続けている。

登校拒否。ひきこもり。それが今の私を的確に表す言葉。理由は、そう大した事じゃない。些細な事で友達と喧嘩をしてしまい、次の日学校に行くのを憂鬱に思った。それで一日だけ、と思って休んでしまったら案外学校に行かない生活というものが楽で楽しくて自由で、次の日も、また次の日もといった調子で今日まで来てしまっている。結局、その友達との喧嘩も仲直りしてない。いや、あれ以来話してすらいない。

 

高梨愛。高校2年生。明るく活発で絵に描いたような優良健康児。勉強も運動もそこそこ、人気も上々。生徒会なんかもやっている模範生徒。要するにありふれた人間。それが私。なんでも大抵の事はそつなくこなせるがこれと言った特技はない。器用貧乏。つまりはそういう事。

映画を見る時は部屋を暗くする。画面は小さいし座り心地の悪い椅子もない我が家で、唯一映画館と同じ条件に出来るのがこれ。目が悪くなる、と言われるが今更もっと目が悪くなった所であまり関係がない。コンタクトをまた合わせなきゃいけないだけ。あれ?度を強くすると値段って高くなるんだっけ?まあいいや、どうせ私が払うわけじゃない。

毎日この生活の繰り返し。映画見て本を読んでネットして。たまに気分転換に散歩。変わるのは映画と本の内容だけ。つまらない?飽きる?そんな事はない。今までだってこうだった。学校行って部活やって帰ってきて。世の中の9割の人間は繰り返しの毎日の中、生活してるはず。私の生活は繰り返しじゃない、みんなそんな風に自分に言い聞かせながら。

学校へは行かなくなったけど友達からはよくメールがくる。もっとも、行かなくなってすぐの頃は色んな人から着たけど今では数人。みんな飽きたらポイなのね。ふう。

 

「最近ガッコの方はどう〜?」

「普通だよん。文化祭の準備が始まったくらいかなぁ。うちのクラスはアイス屋だってぇ(+_+)」

「11月に誰がアイス食べるんだかねぇ(笑)」

「で、あんたはどうなの?まだ地底人生活?」

「あはは。まあね。ビバ地底人(^_-)」

「あたしには絶えられない、そんな生活・・・」

 

友達に前にこの生活を説明したら、「暗闇の部屋にずっとって、地底人かキミは(笑)」って言われた。地底人、ナイスネーミング。言われてみると案外その通り。最近太陽を見ていない。昼間はずっと部屋で映画だし散歩は夜だし。今いきなり外に出たらあまりのまぶしさに目をやられたり、或いは溶けてなくなってしまうかもしれない。太陽の光にあたった瞬間みるみる溶けていく私。想像するとなぜかワクワクした。溶けていく時、私は何を思いながら溶けていくんだろうか。

ふと喧嘩した相手の事を思った。幼馴染。男。幼稚園からずっと一緒。すぐ人の悪口を言う奴。その度に私と喧嘩になる。今までに何度やってきたかわからない。そして同じ数だけ仲直りしてきた。けど今、喧嘩の数の方が一個だけ多い。いつもはあいつが先に謝る。それで解決。でも今回はまだ仲直りしていない。理由は二つ。一つはあの日から私が学校に行ってないから。もう一つは、今回は私が言い出した事で喧嘩になったから。

彼女が出来たんだ。そう言ったあいつへの私のつまらない嫉妬感。嫌な事をたくさん言ってしまった。小さい頃からずっと一緒だったあいつ。喧嘩ばっかりしてたけどいつも無条件で一緒にいてくれるもんだとばかり思っていた。だから彼女が出来たって聞かされ、なんだか随分と遠くへ行ってしまうようで嫌だった、悔しかった、苦しかった。そして、悲しかった。

 

真っ暗な部屋の真中にある小さな画面からは、どこかの国のラブストーリーが流れている。ひねりも何もない、ただ出会った男女が恋愛をしていくだけのストーリー。事件も、浮気も、葛藤もない。陳腐な映画。けど嫌いではない。そもそも、人間はこういう恋愛をこそ、求めているはずだ。好きな人と何事もなく幸せに過ごしていく恋愛を。それなのに人はどろどろの人間関係を描く映画に惹かれる。この矛盾点はなんだ?他人事だからか?そうだとしたら人間とは実に悪趣味な生き物だと思う。

映画は終わる。男女二人の結婚式のシーンがラスト。幸せそうな二人。祝す周りの人々。紙ふぶきのような物が舞い、花嫁投げたのブーケを奪い合う人たちがいる。そんな画面を背景とし、エンディングのスタッフロールが流れる。途中で背景は黒へと変わり、最後の文字が流れ、画面の真中で止まる。

明日、あいつに謝ろう。

不意にそう思った。同時に涙が溢れ出てきた。どちらも意味不明だ。なぜ私は泣いているんだろう、なぜ私は謝ろうと思ったのだろう。そんなに感動的な映画だったのか?人を謝らせようと思わせる映画だったか?どちらも違う。ただ、エンディングロールの最後に、画面の真ん中で止まった「THE END」の文字、真っ黒の画面の中心に小さく白で書かれたその文字が真っ暗な部屋で映画を見てる私に重なって見えたから。そしてそれが妙に寂しく見えたから。

 

地底人は今日で卒業。誰もいない真っ暗な部屋の中で、そう小さく呟いてみた。映画が終わって静かなこの部屋ではやけにはっきりと響いた気がする。遮光カーテンを開ける。時刻は昼の12時半、まぶしい太陽の光が窓越しに私を照らす。

久しぶりの太陽で、私の体は思わず溶けそうになった。

 

〜〜fin〜〜

 


ろぐ。  とっぷ。


 

 

SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ