フロ


 

お風呂のドアを開けたら化け物がいた。

ソイツは浴槽から首を出している。バスクリンで緑色に染まった浴槽のお湯と同じ色をしている。つまりは緑色。表皮はゴツゴツとしていて硬そうで、緑色ということも手伝ってか爬虫類を思わせる。口がワニのように出っ張ってる。多分するどい歯があるのだろう。鼻と耳は見たところ見当たらない。変わりに触覚のような物が頭のてっぺんから二つ生えている。その触覚は先が丸くなっていて、その部分だけ苦そうなピンク色をしている。目が三つ並列についていてぎょろぎょろと三方向を見回している。真ん中の目が私の目と合う。慌ててドアを閉める。

一旦深呼吸。なぜ浴槽のあのガラガラと丸める蓋がなかったのだろう?いや、そんな事はどうでもいい。ワニ?化け物?モンスター?なんだか知らないがともかく何かいる。新手のペットだろうか。そういえば父は変な物を集めるのが趣味だ。自転車のホイールみたいな物やドラえもんに出てくるタイムマシンみたいな物が父の部屋には転がっている。

もう一度ゆっくりとドアを開けてみる。恐る恐る中を覗く。浴槽の蓋は綺麗に丸められ、浴槽の横に立ててあった。一安心。化け物もやっぱりいた。しかも湯船に使って実に気持ち良さそうである。悔しい。本来あそこにいるはずの私は今こうして裸でドアのこっち側にいるというのに。なぜ化け物風情があんなにも気持ち良さそうに人類の特権である入浴を満喫しているのか。納得いかない。まったくもって納得いかない。

バタンとドアを力強く開けどかどかと私は風呂場に入っていく。化け物が入ってるのも気にせず飛び込むように浴槽に入る。私の体積分こぼれるお湯。お湯が冷えた体を十分に暖めてくれる。41℃といった所か。気持ちいい。悔しかった気持ちもこぼれたお湯と一緒に流れ、排水溝へ吸い込まれていった。

見つめ合う一人と一匹。右腕をあげチョップの形を作り、「よう」っと軽快に挨拶してみる。すると水面が急に持ち上がり爬虫類の手が出てくる。そして「よう」っと考えていたよりも高いテノール声で挨拶してきた化け物。若いHIPHOP系の兄ちゃんみたいな声だった。挨拶をちゃんと返すとは随分と礼儀正しい奴じゃないか、と関心。人が入ってる風呂に入ってくる私の方がよっぽど非常識だ。

特にしゃべる事が見つからなかったのでとりあえずソイツの体をつついてみる。硬いと思ってたのになんだがぐにぐにしている。ゼリーみたいだ。掴もうとしたらすべって掴めない。油を全身に塗ってあるかのようだ。「ぐにぐにしてるー。」って言ったら、ソイツはおもむろに私の胸を触ってきて「ちいさーい。」と言いやがった。なんだとこの。私はまだ成長期なんだっつーの。これからだっつーの。そんなに巨乳が好きか、ああそうか。

怒った私は浴槽から出て無言で髪と体を洗う。時折化け物の方を見るがずっと気持ち良さそうに浴槽につかっている。タダでうら若き乙女の胸を触りその上小さいと罵った事など何も気にしていない。所詮は化け物、人間社会の常識などわかりもしないってか。

もう一度浴槽に入る私。「あんた何者?」と、とりあえず疑問を投げかける。「お風呂の妖精。」と口笛でも吹きだしそうな陽気な声でソイツは答える。妖精って顔かよ、と言いたかったがよくよく考えると風呂で長話してる場合じゃないのでもう出る事にする。「じゃあまた明日来るわ。」と言い残し、私は風呂場から出た。後ろから「おう。」っという返事が聞こえた。

翌日、学校から帰ってから化け物の事を思い出し風呂場を除いてみる事にした。今もまだいるのかな?そんな好奇心。そういえば父も母も化け物の事を口にしなかった。あんな変なのが風呂場にいたら普通話すはずなのに。って、私も話してないからな。うちの家族は変わってる。

いなかった。

風呂場に、浴槽に、化け物はもういなかった。というよりも風呂の栓が抜かれていてお湯が入っていない状態だったのだ。流れてしまった?そうだ、アイツの体は柔らかかった。きっとお湯と一緒に流れていってしまったんだ。ああ、なんて事だ。今日も会おうと思ってたのに。今日会うって約束したのに。

これだから化け物は嫌だ。人間社会のルールを何も守らない。約束を守りもしない。せめて「用事が出来たので今日会えません」くらいの連絡をよこすべきだ。まったく・・・。

今度会ったら教えてやる。約束は守るものなんだと。

 

〜〜fin〜〜

 


ろぐ。  とっぷ。


 

 

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