2002/12/29


爆弾処理。


 

誰しもが知っていて、しかし誰しもが決して遭遇しないであろう状況に、今その男は遭遇している。

 

「赤か、青か・・・。」

 

男は刑事。船にはたくさんの人間。。目の前にあるのは爆弾。右手に持ってるのはニッパー。左手にあるのは電源の切れた携帯電話。

つまり今こうゆう状況だ。色んな事情で爆弾を発見し、それを解体すべく処理班の指示を携帯電話で聞きながら線を順番に切っていったわけだが、最後の二本になった所で処理班の「で、最後は赤か青が残ったと思うがその二本のうちどっち・・・」をいう、計ったかのような完璧なタイミングで携帯電話の電源が切れた。どのみちその続きは決まっている。「どっちかを切れば助かる。間違えれば即ドカンだ。」こう言うに決まってる。

ドラマや映画なんかでよく見る状況である。映画の場合は助かるように出来ているが現実はそうもいかない。間違えれば本当に爆発してしまうだろう。男は緊張しながら自分の頭をフル回転させどちらを切るかを考えている。実際には考えてもどうしようもない問題なのだが。

黒いシンプルなデザインの時限爆弾には当然のようにタイマーがついている。デジタルのその画面には『残り182秒』と随分丁寧な表示がされている。男は左手に持っている今はもう役に立たない携帯電話を放り投げ、爆弾に全神経を集中させる。その場の空気にも緊張が走る。

「赤か、青か・・・。」

男はさきほどから何度もそう呟いている。普段はがさつな性格な男だがこの時ばかりは慎重にならなければならない。自分の判断ミスがすぐに乗客1000人の命へと繋がるのだ。

『残り120秒』

無機質なデジタルのタイマーがそう訴える。あと120秒もあるのかと思うと男は少し冷静になれたが、頭の中で120秒を2分と自動的に変換すると急に焦りだす。あと、二分しかない。どうしよう、と。

出来る事なら男はこの場から逃げ出してしまいたかった。そして誰かに任せてしまいたかった。自分にはこの責任は重過ぎる。俺に1000人もの命を預けないでくれ。誰かに任せてしまって、もし駄目だったらそいつを恨みながら死んでいきたい。その方がよっぽど楽だ。男は心からそう思っていた。

しかし現実は厳しかった。ただあと一本線を切るという、子供でも出来る行為を誰も代わってくれようとかしない。それどころか乗客の誰一人としてこうして男が一人で決死の選択を迫られているとも知らずに優雅に食事をしたりダンスを踊ったりしている。その事に多少の恨めしさを感じもしたが、元々正義の味方になりたくて刑事になった男は、ありったけの正義感を振り絞った。乗客1000人の命は俺が助けてやる。そう強く誓った。

『残り48秒』

無常にもタイマーはどんどんと進んでいる。男はまだ悩んでいた。赤なのか、青なのか。悩んでもわかる問題ではない。勘だけが、運だけが頼りなのである。しかし、悩む他なかった。男には何か決定的な確信が欲しかったのである。そこで男はふと思い出す。そういえば昔もこんな風にどっちか悩んだことがあったっけ、と。

(そう、あの時俺は確か大好きな子への誕生日プレゼントを買おうとしてたんだった。けど結局彼女が何が欲しいかわからなくて花束を買う事に決めたんだった。当然花の事なんかわからない俺は店員に二つの花を進められた。青い花と赤い花。どっちにする?と聞かれたんだった。あの時、すっごい悩んだけど最後には直感的に赤い花を選んだったんだ。そしたら彼女に「私赤い花って嫌いなのよね。」って言われたんだった。そうか!あの時は失敗したけど俺はもう失敗しない!)

目を閉じて思い出を回想していた男は、急に目を開け、昔選んで失敗した色の反対、すなわち青の線をニッパーで切った。そして切った途端にタイマーは止まった。『残り時間3秒』と表示されたまま。男は満足げに立ち上がり、一人静かにガッツポーズをする。

(今度は、今度こそは失敗しなかった。乗客1000人の命は助けられた!)

なんとも言えない満足感と共に階段を上がり、自分の個室に入り、備え付けの電話でさっき途中で電波が切れてしまった処理班へ報告をする。

 

「あーもしもし、俺ですけどなんとかなりました。はは。寿命が縮まりましたよほんと。」

「何言ってんだよ。あれ最後、どっち切っても止まるんだよ爆弾。」

 

その時の男の脱力感といったら、思わず受話器を落としてしまうほどであった。

 

〜〜fin〜〜

 


ろぐ。  とっぷ。


 

SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ